文政初年に画壇へ登場した若き日の歌川広重は当初、浮世絵の主流である美人画に力を注ぎ、当時の世間でも彼は「若女絵」を描く絵師として評価されていました。 広重の初期の美人画は、同時代の著名な美人画絵師である歌川国直の写実的な作風に影響を受けています。
文政期の美人画は、衣装の色合いこそ地味ながら、洗練された艶やかさを内に秘めた表現が特徴で、広重もこの様式に沿った作品を多数制作しました。 その中でも「外と内姿八景」と、本作を含む「極彩色・今様うつしゑ」は、双璧をなす優れたシリーズとして知られています。
「今様うつしゑ」シリーズは全12枚から成り、筆致から文政4年(1821年)頃の作と推測されます。 各図にはコマ絵として「写し絵」が描かれ、主図には市井の女性の風俗姿が表現されています。 「写し絵」とは、ガラス板に絵を描き、背景を黒く塗ったものの裏側から蝋燭の光を当て、障子などに投影して楽しむ娯楽の一種です。 当シリーズのコマ絵には草花、玩具、人物風景など多様なモチーフが描かれていますが、本図とどのように関連しているのか明確でないものも少なくありません。